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高橋祐幸のブラジル便り・目次
 

高橋祐幸(たかはし ゆうこう)

ブラジル・サンパウロ在住。1933年岩手県生まれ。1960年にブラジルにわたり、日本商社の現地法人(三菱商事)に35年間勤務。退職後ボランティアでトヨタカップ南米代表実行委員を15年間務め、川崎フロンターレ、大宮アルディージャのブラジル代表顧問を約8年間務めた。県立盛岡中学(旧制)で、八重樫茂生(メキシコ五輪銅メダル日本代表キャプテン)と同級生だったことがサッカーに携わる機縁ともなって、日本にもブラジルにも広いサッカーの人脈を持つに至った。


 

 


#19
進まぬ開幕会場の工事

★未完成のまま引渡しへ
  ワールドカップ開幕のカウントダウンが日に日に迫るなか、開会式と開幕戦の会場に決まっているサンパウロ市のイタケィロン(ITAQUEIRAO)球場が、FIFAに引渡しを約束した4月15日にあとひと月足らずと迫ったところで、まだ多くの未完成部分があることが明らかになり、ブラジル側は「4月15日に未完成のままで、いったんFIFAに引き渡し、残る工事は引き続き急ピッチで進めて6月の開幕式までには必ず100%完成させる」と発表した。
  VIPラウンジ全体、複数の貴賓観覧室(10人程の応接間・バー・観覧席)の全部、マスメディア・センター全体、商業エリア(食堂・商店街などの)廊下と屋内の全部、球場の天井を覆う屋根(90u×2)の全部、世界一豪華になると自慢していた選手更衣室の一部などが絶対に間に合わないことが明らかになった。
  このブラジル側の報告を受けてFIFAの技術調査団が現場(現状)視察と対策会議のためにサンパウロへ駆けつけたが、国立銀行筋がこれ以上の融資を拒否しているところから残余工事部分の資材調達がストップしていることが分かった。たとえばスタンド内の2ヵ所に大型スクリーンを設置することが必須条件となっているが、支払い条件を明確に約束できないことから未だにメーカーへ発注することさえ出来ていない状態である。
  調査団は「もはやブラジル側の約束は信用できない」と現場視察だけで、対策会議をボイコットして引き上げてしまった。

★強まるFIFAの苛立ち
  FIFA本部は急遽、3月下旬にバルケ専務理事を派遣してブラジル政府と協議することにしたが、バルケ専務理事は、これまでに、率直にブラジル側の怠慢を指摘して、ブラジル側から煙たがられている人物だけに、協議が円滑に進められるのかどうかが危ぶまれている。
  もともと、バルケ専務理事が、ブラジル側の準備遅れに警告して「すべての工事はブラジルの尻を叩かなければ進まない」と発言したのに対し、ブラジル政府が国家侮辱であると猛烈に反発したのが、両者の対立の始まりだった。このときは、ジルマ大統領がブラッター会長を呼びつけて謝罪させたのだが、2013年11月に超重量クレーンの転倒で屋根の一部が崩落し、この事故で、遅れていた工事がさらに遅れる事態になり、予定の1月引渡しは不可能になった。今度は、ブラジル側が陳謝して引き渡し期限を延ばしてもらい、12月の組み合わせ抽選会のときにブラジルを訪問したブラッター会長に、ジルマ大統領が「4月15日に工事を終わらせて必ず引き渡す」と約束したので、FIFAもやむなくそれを承認したが、その約束も反故になったわけである。
  今になってFIFA内部では「サンパウロを開会式場に決めなければよかったと」嘆く声しか聞こえないというが、開幕まで4ヵ月を切った段階で、いくらFIFAが嘆こうが、どうなるものでもない。ワールドカップ史上、かつてなかったような準備遅れにFIFAの苛立ちは強まるばかりである。

★他の球場も工事遅れ
  会場となる12球場のうち5球場の工事と開催都市のインフラストラクチャーの建設も遅れている。
  1月には完成すると公表していた(日本代表戦のある)クイアバとポルトアレグレ、マナオスの3球場はさらに2ヵ月遅れの3月中に完成させると言っている。間に合わないから「会場から除外する」とまでバルケ専務理事に言われていたクリチバ球場は「4月中に引き渡す」と約束して除外を免れたが、これも、さらにひと月延ばして5月中には引き渡すと言い出すしまつ。
お定まりのDA UM JEITO(なんとかなるさ)式の言い訳で、FIFAは頭から湯気を立てっぱなしである。
  各都市の球場へのアクセス(道路、橋梁、交通手段など)は「大会中であろうとも工事は続けられる」とむしろ豪語して憚らないありさまである。
  4年前に計画された球場新築・増改築関連予算は3〜5倍増、首都ブラジリア球場など10倍増にまで膨れ上がっており、国民の抗議の声も膨れ上がらせている。
  関係者はふた言目には「政府、州、市の予算支出の遅れが原因」だと言い訳をしているが、いったい当初の予算はどこへ消えてしまったのか、国民の疑惑は深まり、抗議行動はますますエスカレートしている。
  大会前にやるべき球場の機能テスト,親善試合などの実戦テスト、保安・警備テストなど何一つテストの出来ないことが、FIFAの一番の不安要素ではないかと思われる。頭を抱えて俯いているバルケ専務理事の写真を新聞紙上に見ると、いかにFIFAが苦悩しているかが思い知らされる。
(2014年3月21日記)


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