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高橋祐幸のブラジル便り・目次
 

高橋祐幸(たかはし ゆうこう)

ブラジル・サンパウロ在住。1933年岩手県生まれ。1960年にブラジルにわたり、日本商社の現地法人(三菱商事)に35年間勤務。退職後ボランティアでトヨタカップ南米代表実行委員を15年間務め、川崎フロンターレ、大宮アルディージャのブラジル代表顧問を約8年間務めた。県立盛岡中学(旧制)で、八重樫茂生(メキシコ五輪銅メダル日本代表キャプテン)と同級生だったことがサッカーに携わる機縁ともなって、日本にもブラジルにも広いサッカーの人脈を持つに至った。


 

 


#14
FIFAのW杯工事進捗状況視察
クリチ−バ除外、会場変更の可能性も

★大幅な工事の遅れ
 1月中旬にFIFAのミッションがブラジルへ来て「球場工事進捗状況」をチェックした。バルク(Jerome Valcke)専務理事を団長に各球場を施設して回ったのだが、いちばん問題になったのは、クリチーバ(Curitiba)のArena da Baixdaだった。
 工事は、はなはだしく遅れており「クリチーバはワールドカップから除外されるかも知れない」というショッキングなニュースが大きく報道された。
 クリチーバのスタジアムは、観客席を4万人に増設する工事が行われているが、増設観覧席は外装も内装も鉄骨とコンクリート柱が剥き出しで仕上げ工事が止まったまま。
 屋根の工事は全くできていない。
 増設の観覧席は未だ85%を残している。
 増設部に出来る筈のプレスセンターは全く着工されていない。
 ピッチの芝の植え付けは、まだ手がつけられていない。
 こういう状況に、FIFAの調査団はクリチーバを視察したあと「現在の調子では開幕に間に合わないことは確かだ」と判断した。

★2月18日までに結論を
  1月21日にFIFAとブラジル側が協議し、運営委員会と技術委員会を設置して調査して対策を決めることにした。協議にはブラジル側から、スポーツ相、パラナ州知事、クリチーバ市長、地元のAtletico Paranaense クラブのオーナーであるPetraglia会長も参加した。
  FIFAは、2月18日にワールドカップに出場する32ヵ国の代表を集めて「大会最終確認事項セミナー」をフロリアノポリス市で開くので、それに間に合わせるために2週間で結論を出すよう期限を切った。
  その結果、工事が間に合う見込みがなくなり、開催都市を変更することになれば、大問題である。
 すでにグループ・リーグの組分け、対戦スケジュール、各試合会場が決まった後だから大混乱になり兼ねない。
代わりの試合会場をどこにするかが大問題である。新たな開催都市を求めて既設のスタジアムを使うのは、収容人員や設備の古さのために、まず不可能だろう。他の11会場にプラスして転嫁する以外に方法がない。
 チームの移動計画も変えなければならない。
 すでに入場券を手に入れ、旅行計画を立てたサポーターにも被害が及ぶ。入場券は移転した先の球場で、そのまま使えるようにし、キャンセルする観客には払い戻しをしなければならない。
 開幕まで150日を切った土壇場でFIFAは、またまた大変な困惑を押し付けられることになった。

★いまだに汚職体質
 1月6日に、ブラッター(Joseph Blatter) FIFA会長が新年のインタビューで怒りをこめて懸念を表明したとき、ジルマ(Dilma Rousseff)大統領は直ちに反応して「史上かつてない大成功の大会にしてみせる」と大啖呵を切ったものだった。
 そのときに改めて発表された6球場の工事遅れの回復と完成(引き渡し)期限の予定では、クリチーバ球場は88.89%出来上がっており、3月末には落成することになっていた。
 それが半月もたたないうちに「クリチーバをワールドカップ開催都市からはずさざるを得ないかもしれない」とFIFAから云われたのだから世界のサッカー王国を自負していたブラジルの国家的面目は丸潰れ、「国民的屈辱だ」と報道した新聞もある。
  一方、そんな危機的状況にもかかわらず、ブラジル側関係者の対応は相変わらずである。
 球場の持ち主であるAtletico Paranaense クラブ側は「工事労務者を1000人から1700名に増員すれば間に合う。326万レアルの資金不足を直ちにパラナ州政府とクリチーバ市が支出して欲しい。ブラジル国内のテレビ放映権の交渉が、いまグローボ・テレビとの間で行われているが、これがまとまれば資金の余裕が出るはずだ」と追加予算の緊急支出をあからさまに要求している。
 クラブのPetraglia会長は「球場工事の遅れは私一人の責任ではなく、政府も共同責任であることを認めるべきだ」と追加予算の支出を要求する発言を繰り返している。
  工事費予算の中からリベートをとり、そのために予算が足りなくなって工事が遅れ、追加予算を要求してさらにリベートを得る。そういう汚職の構造がある。
  この期に及んでも、その体質から抜け出せないようだ。

★大統領がFIFAを訪問
 ジルマ大統領は、1月22日にナタール(Natal)球場、Arena das Dunas の落成式に出席したあと、23日にチューリッヒに飛んで、FIFAのブラッター会長を訪問した。
 表向きにはFIFAが招待し、大統領が応じたとされているが、実は大統領の側から申し入れ、FIFAは大統領の非公式訪問として受け入れたとも云われている。
 前年にはバルク専務理事の不穏当な発言に言いがかりをつけ、ブラッター会長をブラジルに呼びつけて謝罪させたが、そのときの約束を守れなかったので、今度は自分が出かけて謝罪したのだろうか?
 ジルマ大統領はブラッター会長と話し合ったあと、記者会見で、いつもの言い訳と全く同じトーンで次のように語った。
 「クリチーバ市の球場は工事を加速させて必ず間に合うように完成させる。予定通り皆さん(その場にいた記者たちを)をお迎えして、これまでのワールドカップ中で、もっとも立派なワールドカップ(Wordcup of Wordcups)にすることを約束します」。
 一方、ブラジル滞在中のバルク専務理事は、ジルマ大統領がスイスに飛んだあと「いまさら、もう言い訳はない」と怒りをこめて発言している。

★ナタールでは落成式
 22日に落成式が行われたナタール市のDunas球場は、日本が第2戦の対ギリシャ戦を行う会場である。
 落成式には、100人ほどのデモ隊が押しかけ、W杯に使った膨大な国費とそれに群がった人喰い蟻どもの汚職太りに抗議して、球場への道路を閉鎖した。また大統領挨拶の最中にスピーカーが故障するなど、いくつかのハプニングがあった。しかし、まあ大事には至らないで無事に式典は終わった。
 そういうふうに、ブラジルの当局側は、準備が進みつつあることを印象付けようとしている。
 しかし、クリチーバで露呈した資金不足による工事遅れの原因が、汚職によることは明らかだ。
 ジルマ大統領は、さらなる資金の捻出を約束せねばならず、国民の批判はまたまた噴出することだろう。
 そのためのデモが激化する事態になれば、ブラジル大会は「ワールドカップ中の最悪のワールドカップ」になりかねない。



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