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高橋祐幸のブラジル便り・目次
 

高橋祐幸(たかはし ゆうこう)

ブラジル・サンパウロ在住。1933年岩手県生まれ。1960年にブラジルにわたり、日本商社の現地法人(三菱商事)に35年間勤務。退職後ボランティアでトヨタカップ南米代表実行委員を15年間務め、川崎フロンターレ、大宮アルディージャのブラジル代表顧問を約8年間務めた。県立盛岡中学(旧制)で、八重樫茂生(メキシコ五輪銅メダル日本代表キャプテン)と同級生だったことがサッカーに携わる機縁ともなって、日本にもブラジルにも広いサッカーの人脈を持つに至った。


 

 


#13
W杯前の話題いろいろ

★厳重警備の予行演習
 サッカーのアメリカ代表選手団(Jurgen Klinsmann監督以下26選手)が、サンパウロでキャンプをするため、ブラジル入りしたが、そのものものしい警備たるやオバマ大統領なみの厳重さだと新聞ダネになっている。
 サンパウロ空港に特別機で着いた一行はスタッフも加えて約70名。その中にはFBI官憲が数名同行していると伝えられている。
 大型バスがタラップに横付けされて、入国審査も通関もなく、パトロ−ルカー2台が先導、バスの後部に消防庁のレスキュー隊装甲車、バスを取り囲むように白バイ6台、上空には州警軍のヘリコプターが旋回しながら全力疾走でホテルに直行した。
 翌朝からサンパウロFCのトレーニグセンターで、サンパウロFCとの練習試合を含め12日間のトレーニングをして帰国する予定だが、選手のトレーニングよりもW杯本番中の選手団のセキュリティ確認がもっと大事な目的とされているようだ。
 FBI官憲、ブラジル連邦軍、州警軍、米国領事館、その他のオーガナイザーがこの12日間にあらゆる警備事項を点検・再確認してそれを本番中の全ての代表選手団に適用するモデルにするという。
 一日遅れで韓国代表選手団もパラナ州入りするが、これも同じように警備のテストをするらしい。

★各国チームの1次リーグ移動距離
 本番中は、各国代表選手団はそれぞれのベースキャンプに滞在して、1次リーグの期間中に、それぞれの試合会場に移動することになるが、広いブラジルの東西南北を飛び回ることになるので,その飛行距離が選手の体調に及ぼす影響が問題になっている
 移動距離では、次のチームが1万キロ以上のワースト・ファイブである。

代表選手団名
移動距離数
試合会場都市名
アメリカ 14,320キロ ナタル、マナオス、レシフェ
イタリア 14,126キロ マナオス、レシフェ、ナタル
メキシコ 14,120キロ レシフェ、フォルタレーザ、レシフェ
日本 11,512キロ レシフェ、ナタル、クィアバ
コートジボアール 11,240キロ レシフェ、ブラジリア、フォルタレーザ

一方、距離の短いベスト5は

代表選手団名
移動距離数
試合会場都市名
ベルギー 1,984キロ べロオリゾンテ、リオ、サンパウロ
アルゼンチン 3,590キロ  リオ、ベロオリゾンテ、ポルトアレグレ
アルジェリア 3,992キロ

ベロオリゾンテ、ポルトアレグレ、クリチバ

ロシア  4,304キロ クィアバ、リオ、クリチバ
イラン 4,592キロ   クリチバ、ベロオリゾンテ、サルバドール

ワーストワンのアメリカとベストワンのベルギーは10倍近い差がある。

★地方による気候の違い
 広大なブラジルは、地域によって気候に大きな差がある。大会期間中は、南部4州は真冬、北東部6都市は真夏の気候である。
 それぞれのキャンプ地、試合地で気候の違いによる影響は避けられない。
 第3戦をアマゾンのマナオスで行うスイス代表のオットマー・ヒッツフェルト監督は、湿度が95% 気温は30〜40度の猛暑で、まるで熱帯のジャングルで試合をやれと言われているようなものと痛烈に批判している。医師や理学療法士などを帯同して万全を期すとは云うものの、まるで人体実験に臨むようなことだと怒りを隠さない。
 ザッケローニ軍団は北東部と西部の3都市を廻る。移動距離ワースト4位である。日本の選手が、長い移動と蒸し暑い気候に、どこまで耐えられるかが問われることになろう。
 当初は熱帯地でも昼間に試合をすることになっていたため、試合開始時間を変更するよう要求が出ていたが、FIFAは「過去の偉大なサッカー選手たちは如何なる条件下といえども試合が出来ることを示してきたし、1970年のメキシコ大会では標高2400メートルの高地での試合にも何も問題は起きなかった。以前は試合中に水を飲むことを禁止されていたが、今では給水もできるようにルールが変っている」と強弁して、時間変更に否定的だったが、高まる批判に抗しきれず、ナタル、サルバドール、レシフェ、フォルタレーザ、マナオスの5都市は陽が暮れてからのキックオフに変更された。

★デング熱の心配も
 英国の科学誌「ネイチャー」はオックスフォード大学の衛生学者サイモン・レイ教授の警告として、ブラジルW杯期間中はデング熱ウイルス感染症が最も多くなる時季(昨年度のブラジル国内デング熱患者数は146万人、死者は573人)で、観戦者に(媒介の蚊を防ぐ)長袖・長ズボンの衣料着用することを勧めている。そしてスタジアムには殺虫剤散布を頻繁に実施するべきだとも言っている。
 またブラジルからの帰国者が自国には存在しない病菌を持ち帰ることも懸念されるので、医療関係者は警戒と防御について認識をたかめておく必要があるとも言っている。ブラジルを熱帯ジャングルのような危険地帯とみて、観戦者は冒険者扱いである。

★火がつかない前景気
 世界のサッカー王国でありながら、あと150日に開幕が迫ったと云うのに、 街には大会のPRポスターも、商店街の関連グッズの飾り付けも見られない。
 日本ではよく見られるカウントダウンボードもないし、会場になる都市の空港・市役所などに垂れ幕やモニュメントなども見られない。
 日本では2020年の東京五輪に向けて様々な動きが活発になっているようだが、日本(人)は気が早や過ぎるのか、直前にならないと火がついて熱く盛り上がらないブラジル(人)との国民性の違いなのか。
 つい先週まで街中にクリスマスの飾りつけが残されていたからW杯への準備はこれからなのか、それとも2月末のカーニバル準備の方が大事でW杯はその次になるのか、あるいは球場建設が汚職の種になって準備が遅れていることに嫌気をさしたブラジル国民がソッポをむいているのか……。
 FIFAのヴァルキィ専務理事は、如何にも悔しそうに「ブラジルの球場工事遅れは開幕直前に間に合うにしても、いろいろなテストをやる時間が全く無くぶっつけ本番は一体どうなることやら」と吐き捨てるように言い続けている。
 今までのW杯では、どこの国で開かれようが、ブラジル人にとっては最も人気のあるイベントだったが、自国開催の今回は、ちょっと異なるように感じられてならない。

★真偽定かではないが……
 町のW杯景気には、まだ火がついていないが、新聞では、真偽定かでないものもあるけれど、さまざまな話題が伝えられている。
 W杯をめぐるいろいろな動きがあるなかでも注目されているのは開幕戦の行われるイタケィロン球場の命名権取引である。
 エミレーツ航空が4億5000万レアル(邦貨約7億8千万円)、20年間保有を条件で名乗り出ている。破格の条件であると言われているので契約に至る可能性は極めて高いとみられている。
 ブラジルW杯のマスコットは、絶滅危惧種のモグラで身体をボールのように丸めて走る「ミツオピアルマジロ」のキャラクターで「フレコ」と名付けられた。フットボールとエコロジーを組み合わせた造語である。 170万人の投票で決まったものだ。その「フレコ」の数万個のぬいぐるみが、中国の天長市の工場で生産されているという。
 どこで誰が発注したのか、FIFAのブランド管理を担当しているGBG社さえ知らないと報道されている。前回の南アW杯のマスコット「ザクミ」も中国で作られた。その工場は10代の子女を雇用して1日当たり3ドルの劣悪な条件で働かせていると云う非難も出ている。
 マナオス市の会場となるアレーナ・アマゾ二ア球場は6億5千万レアルの予算を投入して建設されたが、W杯大会後の球場利用の目途がたっておらず市役所の頭痛の種となっている。アマゾナス州裁判所は前からあるライムンド・ビダル刑務所(1000人収容)が現在3000人もの超過収容で、劣悪な環境が非難されていることもあって、大会終了後は球場を刑務所として利用してはどうかと提案しており、それに対する市民の賛否で揉めているとも報じられている。
 サッカースタジアムが刑務所に豹変するとは如何にもブラジルらしい話題ではないか。
 ブラジルにとって、いい話もある。
 W杯開催国となったブラジルの名が高まるにつれて、英国ではブラジル産のワインが注目を浴び輸入が急速に伸びているという。
 従来アルゼンチンやチリ産のワインと比べて品質が一定していないとか、生産者の間で品質の格差が大きすぎるとか、評価は低かったのだが、それを一気に吹き飛ばし、英国人で世界でも有名なワイン専門ジャーナリスト、コーブスティック氏は「ブラジルのワイン生産者の技術は急速な進歩を遂げ英国人の口に合うワインを造り上げた」と絶賛していると云う。
 ところでFIFAの大会で贈られる優勝杯の重さが何キロあるかご存じだろうか?
 一番はコンフェデレーションズ・カップで重さが8.6キロ、次がW杯の6.1キロ、クラブ世界選手権杯が5.2キロ。
 但し、W杯は4.9キロの純金で出来ており、他のカップには合成金が使われている。


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