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◆フリーキック 


サッカーマガジンとの40年
〜連載打ち切りの牛木素吉郎先生にきく〜 (4/4)

(聞き手) 保坂きしこ


メディアの移り変わり

★ 難しくなった権力批判

―― 「サッカーマガジン」の編集方針も、当時とは、すっかり変わったわけですね。

牛木 いまは、ぼくのような遠まわしの批判は分かってもらえないような気がします。というのも、いまは是か非か、黒か白かと言った極論を書かないと、読者がついてこない。インターネット上の書き込みなどを見ると、そんなふうに思えますね。

 たとえば、ぼくが協会の川淵会長批判を書こうとする場合、川淵会長のやっていることのなかの一つを批判するにしても、彼の他の功績も取り上げてバランスの取れた書き方をしたい。でも、いまの若い人たちは、そういう書き方は生ぬるいと思うのではないか。一つだけ取り上げて、徹底的に叩かなければ受けないのではないか。そういう気がします。

―― ネット上の掲示板やブログには、そういう傾向がありますね。しかし、一方、雑誌では、権力批判を書きにくいこともあるのではないでしょうか?

牛木 いまのように雑誌がたくさん刊行されて競争が激しくなってくると、取材先に取り入ろうとする傾向も出てきているでしょうね。若いライターは、にらまれて今後の取材に差し障ると困ると思って、権力批判を控えることもある。おもねることもあるかもしれない。

 ぼくが協会首脳部批判を書いていたころは、専門誌はサッカーマガジンしかなかった。
 それに、当時の権力者は全員が、ぼくの大先輩だったから「牛木はしょうがないな〜」と大目に見てくれたところもありました(笑い)。そういう点では、人間として幅の広い、懐の深い方がただったと、いまになって思います。
 しかし、いまの権力者は、ぼくよりは若い。ぼくは、彼らを若いころから見てきているから、けむたいと思われているかもしれない。そろそろ引退してくれよ、と思っているでしょう (笑い)。

★ 初代編集長の関谷勇さん

―― 編集者のタイプも変わってきたのでは?

牛木 サッカーマガジンの初代編集長だった関谷勇さんは元講談社の児童書の編集者でした。戦後、『野球界』という雑誌の編集部に池田恒雄さんとともにいて、池田さんがベースボールマガジン社を創立したときに移って来た人です。

 1965年に日本サッカー・リーグができて、その翌年に「サッカーマガジン」の創刊を担当されました。
 関谷さんは、ベテランの編集者だったので若手のライターを育てようと、ぼくに書きたいように書かせてくれましたし、児童書出身らしく、コラムにイラストを入れて、子どもたちにも読みやすいように、工夫をしてくれたりしました。

 退社されたあとに、お孫さんたちのために「じーじー」という家庭新聞を作っていました。そのなかにサッカーマガジン創刊の思い出もあって、「野球畑から来てサッカーはシロートだったので、牛木さんに助けられた」と書いてくださいました。そう思っていただいたことには、非常に感激したけれど、実際は、ぼくのほうが育てられたのです。

★ プロの編集者が少ない

―― 現在の編集者とライターの関係は、どういうふうですか?

牛木 いまはプロの編集者が少なくなってきているように思いますね。かつては、ファックスもメールもないので、編集者が執筆者のところに原稿を取りに来て、面と向かって受け渡しをしていました。だから、編集者が常にライターと顔をつき合わせて会話をしていました。打ち合わせ、注文をつけ、批評しあいました。編集者とライターが、お互いを育て、いっしょに雑誌を作り上げていきました。
 いまはメールで原稿を依頼して、メ―ルで原稿を受け取る。それで終わり。一回も顔を会わせないなんてことが当たり前になってしまいました。それでは、いい編集者もライターも育たないし、いい雑誌もできないと思います。

―― サッカーに詳しい編集者は多くなったのではないでしょうか?

牛木 サッカーが好きだから入社したという若い人が多いのでしょう。サッカーについて自分の考えを持っている。それを自分で書いて広く知らせたいと思っている。でも、それはプロの編集者の仕事ではありません。サッカー商業誌の編集は、サッカーの好きな人のために雑誌を作ることであって、自分がサッカーを好きである必要はありません。編集者はサッカーのプロではなくて、雑誌つくりのプロでなければならない。好きな人たちが、自分の考えを自分で書いてつくるのは、同人雑誌です。

 編集の方法も変わってきています。むかしは編集部で企画を立て、執筆者を選んで原稿を依頼し、受け取りに行きった。誌面のレイアウトも編集者が自分でした。いまは、レイアウトは専門のデザイナーにやってもらっている。

 デザイナーがレイアウトをするようになってから、内容よりも見た目が第一になっている。カラー写真の上に文章の文字をかぶせたり、色地に白抜きで文章を載せたりするページが増えてきた。プロのライターの、しっかりした論評が、デザインのための材料に過ぎないような扱いになっていることがある。実に残念です。

★ 印刷メディアも重要

―― コンピューターによって編集が変わったからでしょうか?

牛木 ぼくはデジタル化が始まったときは、いい時代になってきたぞ、と思ったのです。
 今まで苦労して切り抜きなどを作って、情報を保存していたのだけれど、これからはコンピューター がやってくれる。情報は、多量に保存できるし、自由に使えるようになると思ったのです。

 ところが、非常にたくさんの情報が流通していて、保存もされるようになったけれども、それを評価し、選択するのは、たいへんだということが分かった。
 情報の価値を判断し、選んで、人びとに提供するのが「編集」です。
 訓練された編集者が少なくなると、人びとは情報の海でおぼれてしまいます。

 ジャーナリズムの役割の一つに記録性がある。歴史のために記録して残すという気持ちを持って編集をしなければならないと思います。そのためには、ただ情報を流すのではなくて、情報の中から重要事項を選び、価値付けし、日付をつけることが大切です。それが、できるのがプロの編集者です。

 デジタル化が進んだいまだからこそ、印刷メディアが重要だと思っています。
 印刷メディアは、時間をかけて取材、編集をして、選りすぐった情報だけを提供しているからです。
 いまホームページで意見を発表していますが、ページ数は少なくとも、文字中心の、しかりした印刷メディアに書きたいと思いますね。

―― 本日は、どうもありがとうございました。これからのご活躍にも期待しています。

(2006年11月渋谷にて)

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