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メキシコオリンピック40周年記念シンポジウム
「デットマール・クラマーを語る」 【4】 

2008年8月2日 日本青年館504会議室
中条一雄、岡野俊一郎、杉山隆一、
(司会)後藤健生


〜質疑応答〜

質問

質問 クラマーさんは日本代表の組織についても言及していたと聞いています。特に「子供の育成」に力を入れるように言っていたと聞いたことがあります。だいぶサッカーが普及してきていますが、現在の日本サッカー界の底辺の育成について、どのようにしなくてはいけないかご意見をお聞かせ下さい。

岡野  大変基本的で難しい質問だと思います。実際サッカー人口は大変増えていると思います。私が旧制中学だった昭和22年東京のチームは14チームでした。今東京は300チームくらいです。今では子供達がキャッチボールよりボールを蹴っている姿をよく見かけるようになっています。大変ありがたいことです。そんな中でクラマーさんはなぜ子供の育成に力を入れた方が良いと言ったかと言えば、直接的には底辺を拡大して良い選手の出現を望む事と、サポーターの増加のためで、間接的にはサッカーはいつの間にか走っているスポーツなので走ることは健康にもまた他のスポーツにも役立つということだと思います。
  サッカーファン、サポーターは増えているとは思いますが、良い選手が出てきているのか、子供達が健康になってきているかということについては疑問ですね。選手の育成についてはやはり指導者と両親の影響が大いに出てくると思います。良い選手になるには、やはりサッカーを好きになって相当夢中にならないといけないと思いますし、指導者は素質を見抜き良い指導が出来るか、親御さんが夢中になっている子供をどのようにサポートするかにかかって来ると思います。
 今、高校選手権でも輝く選手が出てきません。いつもマスコミは若いイキの良い選手を求めています。他の競技ですと、ゴルフの石川遼君、テニスの錦織圭君、野球のダルビッシュ有君と田中将大君等のフレッシュなスターがそれぞれの競技を盛り上げるのに一役買っています。 先日の北京代表のアルゼンチン戦でもゴールデンタイムにもかかわらず視聴率が9%でした。今20%ないとスポンサーが付かなくて困るのではないかと心配しています。東京・メキシコで輝いたのは杉山君や釜本君、その後は中田英寿君などが出て来ましたがサッカー界は今、残念ながら輝くスターがいません。
 私は実はこれには日本の教育の問題が挙げられると思っています。今の教育は自分で考えることや適時性を教えていません。私は長年教育審議会に携わって教育についても見てきましたが、私は最後まで反対したのですが義務教育にコンピュータが導入されています、私はコンピュータ導入によって考えることをしなくなることを恐れていました。先程クラマーさんがおっしゃった選手の適正を見るところには、いかに選手が考えて行動できるかということを重要視していたように、サッカーは考えるスポーツです。ですから現在の考えることを教えない教育の中では成立しないわけです。
 出来ることなら、輝く選手が出てきて欲しいと思っています。

中条  デュイスブルクのスポルトシューレでは少年が300人2週間サッカーをしに来るのですが、そこではサッカー以外に勉強ももちろんやります。そこのコーチが「この子達がサッカーの選手になってくれれば嬉しいけれども良いサポーターになってくれれば良い」と言っていました。ドイツではかつて地域でそのようなことをやっていましたが、今ではクラブチームがそれぞれやるようになりました。
 日本でもクラブチームが育成をやり始めていますが、そうなってくると指導者がとても大切だと思います。クラマーは「代表選手は誇りを持て、プロとしてのプライドと義務感を持たせるべき」と言っていました。今、Jリーグではプロとしての義務感を持っているのでしょうか? 城や前園みたいなあんな才能のある若い選手が簡単に選手生命を終わらせてしまう現状は残念だと思います。

後藤 子供達の普及という事では静岡は盛んかと思いますが杉山さんはどうですか?

杉山さん

杉山 僕の時代は静岡でも藤枝が凄くて、それ以外はたいした事はありませんでした。私は清水の出身なのですが、清水は野球が盛んでした。中学でサッカーをやり始めたら、明治生まれの親父に「何だ、五体満足に産まれたのに足しか使わないスポーツなんて」と言われました。スパイクが買えなかったので運動靴で泥んこのグラウンドの中で足が速くてドリブルが上手かったのがたまたま岡野さんの目に留まって代表になりました。私の生まれもらった悪い性格、負けず嫌いがスポーツにあったんでしょうね。
 今、静岡県内をサッカー教室で周っていると、サッカーを楽しませたいのに両親特に母親が口を出し過ぎて困ります。また指導者も教えすぎで子供に考えさせないですね。あれでは良い選手が出ないのがわかります。子供は自由にやらせるべきです。私は低学年には、駄目なところが3つあるのを2つだけ伝え、良いことは1つしかなくても2つ言うようにして伸ばすようにして、親には「だまらっしゃい」と言っています。
 私が代表になった頃、夜遅くまで飲みに行っていたりすると「杉山が夜遅くまで飲んでいる」なんて指差されたりしたので、裏口から入ったりタクシー使ったりして、代表になると金のかかる競技だなー、と思っていました。長沼さんからは「有名税だ」と言われましたが「そんなものもらってないよー」とアマチュアでしたからね。でも、代表だというプライドと誇りを持って、サインも最低1時間はしていましたね。私がジュビロにいた時に選手に伝えた、サッカーに取り組む心構えをとしては「人に勝つには己に勝て」と「スポーツマンは芸能人ではない」ということです。良い選手になればお金、名声、地位、女等は自ずとついてくるよ、と伝えていましたが、今の選手は実力以上のスター気取りの人が多いのでどうなるんでしょうかね?


質問
  クラマーさんの事で後世に残しておきたいと思うことは?

杉山 クラマーさんの教えというのは基礎、基本を頭で考えて体で覚え教え込むこと。体で覚えるのは自分しか出来ないですから。後は人の話を聞く、自分の意見を持つ、大切なことはメモを取れ、と言われました。今はコーチングスクールが出来ましたが、私はライセンスを持っていないのですが、今の指導者はライセンスを習得したらもう一人前になった気でいるような気がします、それで本当に大丈夫なのかと思います。ライセンスを取ったらそれをどう活かすか、その後が大変だと思います。ほんとにこいつ勉強してきたのか? と思うようなライセンス取得者がいますから。今でもクラマーさんくらいの模範を見せられる指導者はなかなかいませんから。その辺も勉強をしなくてはいけないと思います。

岡野さん

岡野 この本買われた方は私の推薦文をお読みになったと思います。「サッカーの基本は100年経っても変わらないと知るだろうと」。どうも日本は古いものを大切にしない傾向がある気がします。ドイツではベッケンバウアーはベッケンバウアーです。クラマーから教わったものは何も古いものではなくて、基礎、基本です。サイドキックは足首を固定して蹴る。その基礎、基本が今ゆるくなっているのが大変残念です。基礎、基本と言うものは100年経っても変わらないので、クラマーから教わったものは大切にしなくてはいけないと思います。
 私がテレビのサッカー解説の仕事を初めてやったのは全日本対ユーゴスラビア戦だったのですが、クラマーさんもドイツで解説の仕事をやっていいたので助言を求めたら、「センテンスは短く、チャーミングに話せ」と言われました。そして、「日本の選手は良く知っているだろうから相手チームのことについて調べるように」といってユーゴスラビア選手について教えてくれました。おかげでそれ以降、30年間NHKで解説をすることが出来たわけです。
 残念ながら今のTV解説を聞いていると言葉はめちゃくちゃだし、用語を間違えて使っていますね。この前新聞も「サッカーコート」なんて平気で使っていましたが「コート」はテニスくらいの狭いスペースのものを指すのであって、サッカーは「フィールド」ですね、「ゴールマウス」はゴールエリアの危険なところのことですが、今やゴールそのものを指して「ゴールマウスを外れました」なんて言っていますね、「サイドライン」も平気で言いますが正しくは「タッチライン」です。テレビの影響は大きいですし今は国際化でから正しい言葉を責任持って使って欲しいですね。

中条  彼から学んだのは自己犠牲、自分をコントロールする力ですね。日本に来た後、中国でも5年間指導していました。食べ物は朝昼バナナと紅茶だけでしたが、食べ物は食べなければ死ぬけどセックスしなくても生きていけると言っていました(笑)。終わりです。

参加者

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