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サッカーマガジン 1985年8月号

ビバ!! サッカー!! ワイド版

南米勢の技術と意地で白熱戦
高ギャラでキリンカップ決勝大成功

ライバル意識と賞金と
キリンカップ決勝がすばらしい試合になった理由は!

 最初に、お断りを一つ。
 6月号の「ジャパンカップの怪」の記事の中で引用した数字について、もっとも事情を知っている立場の人から説明を受けたので補足したい。
 あそこにあげた数字は、出所を明記してある通り間違ってはいないのだが、スポンサーが日本サッカー協会に出しているお金は、あれだけではない。ほかにも寄付などをしている。サッカー界への貢献度は、もっと大きいとのことである。
 ともあれ――。
 大会の名称が変わったためではないだろうが、ことしのキリンカップの決勝戦は、すばらしかった。8年目を迎えたこの大会の中で、もっともハイレベルの試合だったと思う。
 4年に1度のワールドカップに出かけても、あれだけの試合は、そう見られるものではない。
 どんなところが、すばらしかったか――。
 まず、選手の技術がすばらしい。
 両チームとも、ベストメンバーではない。ウルグアイ代表は、監督の話では、代表チームの2軍か、2軍半というところだという。ワールドカップ代表になるような顔ぶれは、ほとんど外国に出ているからだ。
 ブラジルのサントスの方は、ベストメンバーから3人は抜けていた。
 しかし、それでも、サントスのミランジーニャとゼ・セルジオ、それにウルグアイのダシルバとアギレラのプレーは実にファンタスティックだった。南米は、まさにサッカーのタレントの宝庫である。
 次に、南米の両チームは、実に一生懸命にプレーした。日本に親善試合で来たプロチームの中で、これほど真剣に試合をしたチームは、これまでに、なかったのではないか。
 なぜ、真剣に争ったか。
 考えられる理由が二つある。
 一つは、ブラジルとウルグアイが歴史的に、サッカーではとくに激しいライバル意識を燃やしている間柄だということである。
 もう一つの理由は、南米の人たちの話を根拠にすると、彼らにとってはかなり高額の外貨によるギャラがかかっていたと思われることだ。
 おかげで、今回のキリンカップの決勝は、いい目の保養になった。
 ただ、試合の終わりごろに、審判をめぐるもめごとがあったのだけは、いささか残念だった。
 サントスの4点目は、明らかなオフサイドだった。審判3人は日本人だったのだが、線審はすぐ旗をあげていた。
 しかし、主審は、旗をみないでゴールの笛を吹いた。
 これは、4月号の「ビバ!サッカー」に書いた「アマチュアは困る」と同じく主審の不手ぎわである。
 記者席の仲間から「ウルグアイの選手が、ことごとに主審に文句をつけたから、主審が冷静さを失ってしまったんだ」という意見が出た。
 天罰てき面というところだが、審判員にとっては、これは言い訳にはならない。
 世界には、いろいろなサッカーがあり、いろいろな国民性がある。
 どんな場合にでも、冷静でいられるようでないと国際審判員とはいえない。

グーテンドルフの策略
ウルグアイとの試合を接戦に持ち込んだ狙いと作戦!

 ことしのキリンカップで、もっとも、魅力のあった試合は、決勝戦を除けば、大宮で行われた読売クラブ対ウルグアイだった。
 読売クラブが、のびのびと攻撃的なサッカーを展開して、持ち味を十分に出したのが、まず良かった。
 次に、得点のうえで、取りつ取られつの接戦になったのが良かった。せり合って、ゴールがたくさん生まれるサッカーは面白い。
 三番目に、ウルグアイの良さも十分に楽しめたのが良かった。接戦だったが、ウルグアイが手を抜いていたわけではなく、ゴールはみんなファンタスティックだった。
 親善試合としては、最高の出来だったと思う。
 こういういい試合になった裏には読売クラブのルディ・グーテンドルフ監督の、プロフェッショナルらしい策略があったと、ぼくはにらんでいる。以下は、試合を見て、ぼくが推測したグーテンドルフ監督の策略である。
 ベストメンバーではないとはいえ、世界に名だたるウルグアイのナショナルカラーを着けたチームを相手に善戦すれば、日本の単独クラブとしては、大いに名声を高めることができる。勝てないまでも、引き分けに持ち込めれば、クラブとしても、監督としても、世界中に大いに自慢できるだろう。
 しかし、本当のところは、レベルに大きな差があるのだから、まともにやっては大敗するおそれがある。
 こういうときに、とるべき策の一つは、試合時間を短くすることである。極端な話をすれば、試合時間が5分間だけであれば、0−0で持ちこたえることは、そうむずかしくはない。
 しかし、実際には、試合時間は90分間だから、守ってばかりいればとても持ちこたえられない。そこでしっかり守る一方、相手の攻めている時間を少なくする必要がある。
  積極的に攻めて相手に守らせろ、しかしむだなシュートで相手にボールをやるな――これは、もともと読売クラブの得意とする戦法だ。
 ファウルされても、かっかとなるな。倒されたら、ゆっくり時間をかけ、フリーキックも慎重にねらえ――向こうが、いきり立って攻め出すと力負けするから、荒れた試合にしない方がいい。
 試合は、読売クラブの思い通りの展開になった。
 ウルグアイは、いつでも点をとれると思ったのだろう。力づくの攻めではなく、いいところを見せようとした。
 読売クラブがゴールをあげると、さすがに、すぐ取り返しにかかったが、1点リードすると、それを守ろうとした。
 読売クラブとしては、1点リードされていても、そのまま残り5分くらいになれば、その間に、なんらかの拍子で1点とれないものでもない。そうすれば引き分けにはなる。
 実際に1点差で残り5分になったときは、さすがにウルグアイの選手たちは目の色が変わり、守りに懸命だった。
 結局、4対3で読売クラブは負けたのだが、それでも、試合後のインタビューで、グーデンドルフ監督は「私は、わがボーイズを誇りとする」と言い、内心、得意そうだった。

徐才先生にきいた話
W杯2次予選の相手は、広東省中山県出身の選手だ!

 中国のスポーツ省次官(国家体育運動委員会副主任)である徐才先生が、ベースボール・マガジン社の招きで、5月下旬から6月上旬にかけて、日本を訪問した。もともとジャーナリストの出身で、中国スポーツ新聞「体育報」の社長もやられていた方である。 
 ぼくの勤めている読売新聞社運動部は、「体育報」に、かねてから、いろいろ協力していただいていて、ぼく自身も、徐才先生に、お世話になっている。
 そんな事情があるので、ベースボール・マガジン社の池田社長の特別なご配慮で、読売新聞社主催の歓迎夕食会を開かせていただくことができた。
 席上、当然のことながら、サッカーの話が出た。
 北京で行われたワールドカップ予選の試合で、中国は香港に敗れて脱落した。そのために、2次予選の日本の相手は、予想されていた中国ではなく、香港になった。
 「これは、まことに残念なことです」
 と、ぼくが述べた。
 「日本と中国とのホームアンドアウェーになれば、北京の試合を取材に行こうと狙っていたんですが、だめになりました」
 徐才先生が答えた。
 「中国の多くの人たちも、たいへん失望しました。圧倒的に優勢だったのに、なぜ点がとれないのか。中国は20本以上シュートし、香港は5本しかシュートできなかったのに得点は香港があげたのです」
 そこで、ぼくは、サッカーマガジンの読者には、すでにおなじみの、ぼくの持論を述べた。
 「だいたい、東南アジアの北の方のサッカー選手はシュートがへたなんです。組織的なプレーはまじめにやるが、ゴール前で個人的な能力を発揮できないんです」
 シュートに策がないのは、日本のサッカーの欠点だが、朝鮮もそうである。そのおかげで、平壌でのワールドカップ予選試合を、日本は引き分けることができたのだが、その話は、この席ではしなかった。
 「中国もそうだと思います。ぼくの見るところ、中国の北の方、たとえば遼寧省の選手や北京の選手は体力があり、チームプレーに忠実ですが、シュートは型にはまっているようです。同じ中国でも、南の方の広東省の選手は、体格はよくないが、シュートは巧みなように思います」
 このぼくの意見に、徐才先生は同感の意を表した。
 「そうなんです。香港の選手といっても、本来は広東省の中山県出身の選手なんです」
 前に紹介したことがあると思うが中国南部、広東省中山県は、少年サッカーのとくに盛んなところである。
 ご承知のように香港は本来、中国の一部であって近い将来、中国に返還されることになっている。
 つまるところ、中国対香港は、中国の国内予選だったので、2次予選の日本の相手は、やはり中国なのである。
 森孝慈監督に「ゆめゆめ、油断なさるな」と申し上げておく。


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