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トットナムはなぜテレビにのらないか?
(サッカーマガジン1971年7月号 牛木記者のフリーキック )


「あれっ、今度はテレビないの。どうして?」
「バレーボールの日本対ソ連は、みなテレビやってたじゃないの。サッカーがやれないわけないだろ」
「視聴率、落ちたのかな。スポンサーがつかないんじゃないか」
 ―― いや、うるさい、うるさい。
 トットナム・ホッツスパーの試合は、神戸の第1戦がNHKテレビで中継されただけで、東京の2試合は、テレビにのらなかった。外国からプロ・サッカー・チームが来て、民放のテレビが放映しなかったのは、はじめてである。
 テレビがやらないことが分かると、ファンから、うるさいくらい問い合わせがくる。
「なぜ、やらないの」「署名運動して陳情しようか」「スポンサーをさがそうよ」
 そこで、今月は、東京のテレビ各局の担当者に電話をかけて、事情を聞いてみることにした。
 東京には、NHKのほかに民放が5局。分かったことは、6局とも「スパーズをぜひ電波にのせたい」と思っていた ―― ということである。


法外な放映権料?!

「日本蹴球協会が、1試合について、いくらくれといったと思います。500万円ですよ。うちの局はプロ野球の巨人戦だって、その半分も払っていない。法外ですよ」
「1回かぎり。一つのテレビ局の独占、主催でやるというのなら、それくらい出すということもあるでしょう。だけど、いつでもってわけにはいかない。そりゃ、プロチームを招くには、もとがかかっているってことは、分かるけど、主催は協会なんだから。そうそう先さまの都合だけを考えてもいられません」
「放映権料ってものは、その番組の時間帯、目標視聴率、制作費によって決まってくる。日ソのバレーボールの場合は、夜のゴールデン・アワーにやって、フタケタ (10%以上) の視聴率を確実にとっている。それで120万円くらいという話ですよ」
 要するに、協会が、がめつ過ぎるのが大きな障害の一つだったらしい。
 もっとも条件さえ折り合えば、500万円はともかく、かなりの額を出すこともできる、という意見もある。
「テレビの場合、お金は結局、スポンサーが出すのだから、サッカーの試合の放映にお金を出すスポンサーの時間帯に、好カードがあれば、放映できる。そういう条件を作ってくれないで、前には500万円だったから、といわれても…」というのである。
 あるテレビ局の場合、火曜日の夜は、プロ野球中継を定期的に組んでいるが、ときとして巨人戦を中継出来ないときもある。そういう日には、ぜひサッカーをやりたい、という。5月の下旬は、毎年巨人が北陸に遠征するから絶好のチャンスで、ことしは、5月25日をサッカーのために優先的にあけておいたけれども、日程を合わせてもらえなかったので、バレーボールをやったそうだ。
 また、別の局では、金曜のスポーツ定期番組なら、予算上、多少は無理がきく。しかし、これも日程が折り合わなかったそうだ。
 日程を合わせるには、来日するチームの都合もあるが、会場になる国立競技場を確保できるかどうかも、間題である。
 専用サッカー場を持てないのは、ここでも悩みのタネである。


交渉の仕方にも問題?

 協会のテレビ局との交渉の仕方がまずい、という意見もあった。
「いつごろ、どういうチームを招いて試合をするという計画を、早目に全部のテレビ局に公開して、出来るだけ中継してもらうように努力した方がいい。バレーボールはそうしているが、サッカーは、どういう方針なのかさっぱり分からない。個別交渉のつもりらしいけど、担当理事は、テレビ局を訪ねてきたこともない。話を持ち込まれたときは、もう時間の余裕がなく、番組変更もできなくなっていた」と不満をぶちまけた人もいた。
 そういえば、協会は、ことしは年間スケジュールの発表もしなかった。ぼくが新聞記者になって、はじめてである。これにも、なにかインボーがあったのだろうか。
 協会が秘密主義、耳打ち主義で、ギャランティーのかけひきをするつもりなのじゃないか、と疑う人もいた。
 それどころじゃない。「一部の役員が特定のテレビ局と結んでいるというウワサもありますよ」という人さえいる。
 テレビ局との交渉を担当していた小野卓爾常務理事、岡野俊一郎理事を、ぼくは個人的にも、よく知っている。
「試合の解説に出演するからって、特定の局に情報を流したり実カ者の立ち場を利用して、サッカーのためにならないことをするような人たちじゃ、ありませんよ」
 と、ぼくは弁解はしておいた。
 しかし、「瓜田に履 (くつ) を納 (い) れず、李下に冠を整 (ただ) さず」という言葉がある。スモモの実のなっている木の下ではぼうしに手をかけないようにし、畠の中では、しゃがんでクツをはいたりしない。スモモやウリを盗もうとしているのではないか、と疑われないためである。
 誤解を招かないためには、1人の専門家が多くの仕事をかかえこまない方がいい。専門家のグループが、それぞれ分担して仕事をし、意見を出し、専任の事務局長が、そのグループを横につなぐ。理事会は大所高所からチェックする立ち場にいて、事務的な折衝は、色目で見られない有能な事務局長が、客観的に見ても公平にやるのが、いちばんいい。
 だから、テレビ問題は協会の組織改革の問題でもある。


3〜4千万人が見そこなった?!

 ぼくが話をきいたテレビ局の人たちは、1局を除いて、みんなが「多少無理はあっても、サッカーを出来るだけ取りあげたい。サッカーが好きだし、将来性があると思うから……。局の中でも理解のない人たちを説得するのに苦労している」と、いってくれた。
 残りの1局の人も「サッカーをやらない」というのではなく、「協会が一時的ブームにのって “やらせてやる” という態度に出るのは間違い。時間帯、視聴率、制作費のバランスという経済原則を無視しては永続きしませんぞ」ということなのである。
 関東地域では、視聴率1%あたりの視聴者は70万人とされている。スパーズの試合は、うまくやれば15%は出ただろうと、ぼくは推定する。そうすると2試合で、延べ2100万人、他の地域にもネットされることを考えると、3千万〜4千万人の人がスパーズを見そこなったことになる。これは日本のサッカーにとって大損害だった。協会の人たちは、サッカーを「大衆のスポーツ」にすることを忘れないで欲しい。
 実をいうと、4月から日本蹴球協会に “大物” の事務局長が登場している。この機会に協会の組織と運営が、面目を一新してもらいたいものだと、ぼくは願っている。
 今月は、この事務局長のことも書こうと思ったが、テレビについて不満をもっている読者が多いようなので、ついテレビの話が長くなった。事務局長の話は、この次にしよう。

 

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