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こんなプレーは断固取り締まれ
(サッカーマガジン1970年5月号 牛木記者のフリーキック)


 マナーが悪いことでは、審判員たちから折り紙をつけられている某有名選手が、猛烈果敢なタックルをした瞬間、
「ピピッ!」
 と主審の笛が鳴った。
「これが、反則かよ。ボールにタックルしたじゃないか」
 と某選手。
 主審は、この悪態が耳に入らなかったふりをしている。フリーキックで試合再開。
 しばらくして、その選手が、また猛烈なタックルをして、あいての選手の向こうずねを、かっぱらった。
「ピピッ!」
 再び主審の笛。
 すかさず、その選手が、主審にいった。
「そうこれが反則だ」


悲哀のにじむ話

 このショート・ショートは、ある一級審判員が、冗談に話してくれたものですが、「サッカー小ばなし」としては、なかなかよくできている。あるいは、切実な体験をもとにしたものじゃないか、と思います。
 日本のサッカー選手は、トップ・クラスともなれば、ユースのころから、なんども外国に遠征しています。多いひとは20回以上行っている。そして、世界最高水準のプレーを見たり、体験してきたりしている。それで、サッカーのことは、おれの知っていることが、すべて正しい」と信じ込んでいる人もいるらしい。
 ところが審判員のほうは、めったに海外で経験をつむ機会がありません。外国の審判員だって、トップ・クラスの国際試合で笛を吹く機会は、特定の人以外は非常に少ないんですが、日本の審判員の中には、このことで選手に対して劣等感を持つ人がいる。
 この間の悲哀が、この小ばなしの中に、にじんでいる、とみるのは、思い過ごしでしょうか。


断固退場させよ

  3月、三国対抗のスウェ―デン・ヨテボリ対ブラジル・フラメンゴの試合で、丸山義行主審が、フラメンゴの5番、クラウディオ選手を退場処分にしました。
 試合のあとで、フラメンゴのフランカラッシ監督が「きょうの主審の態度はよかった」といっていたくらいで、丸山主審の処置は妥当なものでした。
 ぼくは、外国チーム同士の試合で、日本人の審判員が、断固としてプロ選手を退場させたのは立派なものだと思う。
 相手がプロだろうが、一流選手だろうが、なにも審判員が遠慮をすることはないのです。
「どんな場合に退場させるべきか」ということは、競技規則にはっきり書いてある。その通りにすればよい。
 警告や退場にすべきところを、あいまいな “注意” くらいですますのが「練達の審判」だとするのは、間違いだと思います。競技規則第12条のVとWに書いてある通りにする以外に、どんな方法があるでしょうか。
 日本で開かれた国際親善試合で、日本人の審判員が外国選手を退場させたのは、非常に珍しい。
 あとで見目正基氏が調べて下さったところでは、1966年のアジア大会代表壮行試合で、浅見主審が香港選抜の選手を退場させたのが、ただ1回の前例のようです。


取締るべきプレー

  国内の一流チームの、一流選手の試合でも、見に来ている少年たちの、お手本にならないようなプレーがかなりあります。
 また、それに対する審判員の態度も、自信がなさ過ぎるように思えます。はじめにあげた “小ばなし” が、“小ばなし” ではなくて、“実話” じゃないかと思うときがあるほどです。
 よくある例をあげてみましょう。
 (1)ゴールキックやコーナーキックの時、ボールをラインよりも少し外側に置く、わずか20センチか30センチ外に出して、なんになるのかと思いますが、少しでもルールの網をかいくぐろうという、ちっぽけな根性が情けない。現に小学生や中学生の試合を見ると、マネをしている少年たちがたくさんいます。審判はなぜ注意をしないのか。
 (2)抜かれそうになると、相手のシャツを引っぱったり、腕で相手のからだを抱えこんだりする。あるいは、相手のパスをわざと手でたたき落とす。もちろんホールディングやハンドリングの反則はとられるが、そのままですませてよいのだろうか。
 (3)審判に対して、抗議をしたり、取り囲んで口ぐちにアピールする。さすがに審判が、これをとりあげるようなことはないが、これは明らかに、規則第12条(1)項の違反で、警告して間接フリーキックをとるべきであるのに、“聞かないふり” をしていることが多い。
 (4)フリーキックのときに、守備側が、なかなか、テン・ヤード・オフ (9b15以上離れること)をしない。
 (5)ベンチにいるコーチや監督が、競技中にタッチラインのそばに行ってコーチをする。
 ほかにもまだ、たくさんあると思います。こういうことが起きるのは、協会が断固とした指示を出して、競技を統制する態度を示さないことにも原因がある。


審判も選手も不勉強

 最近のイングランドのサッカー協会の雑誌には「テン・ヤード・オフを守れ」という1ページの大きな警告が、デーンと掲載されている。
 これを見れば、いかに一流の選手が「外国の選手は適当にやっている。日本だけが守るのはバカ正直すぎる」と主張しようとも、どちらが正しいかは明らかです。先月号に書いた規律委員会はこういう仕事もするべきです。
 審判員に自信がなさすぎることも、先に書いた通りです。また審判員が、技術や経験だけでなく、審判理論の面でも、ずいぶん不勉強だと思うことがあります。
 しかし、なんといっても、選手たちの態度がもっとも基本です。
 ぼくは、ある非常に有名な選手が、「審判員に対して試合中に抗議はできない」ということを知らなかったのに、非常に驚いたことがあります。その人は「キャプテンなら抗議をする権利があるのではないか」というのです。
 たしかに、審判へのアピールが、まったく認められていないことには不合理な面もある。
 たとえば、ゴール正面の間接フリーキックが、直接ゴールに入ったときに、主審がカン違いをして、思わず「得点」の笛を吹いた例が最近ありました。もちろん、だれにも触れないで入ったのだから、得点にはなりませんが、主審も線審も、カン違いに気がつかなかったら、取り返しのつかない結果になります。
 このような(きわめてまれなケースですが)場合に、キャプテンにアピール権を認めようという提案が、最近イギリスでもあって、FIFA(国際サッカー連盟)でも、近く検討してみることになっています。
 しかし現行規定では、絶対に審判への抗議は認められないのです。審判は、現行規定に従って、厳格な処置をしなければならないし、選手も、このことを知っていなければ話になりません。


正々堂々とやろう

 サッカーのルールは、他のスポーツにくらべれば簡単です。ルールの基礎になっている精神は、もっと簡単です。
 それは「正々堂々とやろう」ということだと思います。
 だから、技術的なカン違いや間違いは、審判でも、選手でも、ときとしてはあるでしょうが、基本的な考え方を間違えるはずはないと思います。
ところで、いちばんはじめに書いた “小ばなし” の場合、あなたが審判員だったらどうしますか。
 ぼくが主審だったら、某選手が最初に文句をいったときに、その選手に警告します。
 2度目に選手が “反則を教えてくれた” ときには “授業料として” その選手に退場を命じます。

 

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