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プロ・サッカーはできるか
(サッカーマガジン1968年8月号)


 プロサッカーを待ち望む声は高く、実際にプロ創設の動きもある。日本のプロは、いつどんな形で始まるだろうか。


飛びかうウワサ

 ことしのはじめごろだったと思うが、こんな話をきいたことがある。
 日本代表チームの一部の選手のところに、某会社の名前を名乗る男がきて、「プロ・サッカーにはいらないか」と誘ったというのである。某会社というのは、あまり聞いたことのない名前で、電話帳にもなかったそうだ。
 ところで、プロ・サッカー選手になる条件は、契約金300万円、月給15万円。
 先日、電車の中で古河電工の宮本征勝クンに会ったので、この話を持ちだしたら「ふふふ」と笑って、
 「そりゃ、ちょっと冒険ですよ。一回でつぶれて315万円残るだけ。いまの会社にまじめに勤めていりゃ、2千万円ぐらいもらえるんじゃないですか。」
  と冗談をいっていた。
  プロ・サッカーを作ろうという話は、しかしこれだけではないらしい。2、3のテレビ会社に企画が持ち込まれているというウワサを耳にしたこともある。
 ぼくのところにも、わざわざお手紙をくださる方がいる。“サッカー和尚” で知られる愛知県の鈴木良韶氏は「日本のサッカーを飛躍させるには、外国のようにプロを作るしかない。ジャーナリズムの力で実現させて欲しい」とご意見を寄せられた。
 作家の寺内大吉氏は、日本代表チームの長沼監督とテレビ対談をしたとき「あれだけの技術を持ち、観客を集められるだけのタレントが、一銭ももらえないのは、かわいそうだ」とプロ・サッカー待望論をぶたれたそうだ。
 国際サッカー連盟 (FIFA) のサー・スタンレー・ラウス会長も「アジアのサッカーをさらに飛躍させるには、将来プロ選手の登場が必要になるだろう」という談話を発表したことがある。「いずれは ――」と、だれしも思ってはいるようだ。


遠くないプロ選手の誕生

 ぼくの見通しは、次の通りだ。
 日本にも必ずプロ・サッカー選手が生まれるだろう。その時期はいまプロ・サッカー球団を作ろうとしている人たちが考えているよりも遅いだろう。早くても、ここ1、2年以内ということはない。
 しかし、現在、日本サッカー協会首脳部の多くの人たちが考えているよりも早いだろう。遅くても10年以上あとではないだろう。
ただし、これは「プロ・チーム、あるいはプロ・リーグができるのは ――」という意味である。
 ぼくの考えでは、いまの日本リーグをぶっつぶしてプロ・リーグを別に作ろうという企画は根本的に間違っている。不可能ではないにしても、日本のサッカーのためにはならないと思う。プロ・チームを “作る” のではなく、日本リーグの中にプロの選手つまりサッカーの技術によって多少でもお金をもらう選手 ――が “生まれて” くるのだと思う。はじめはノン・アマチュアあるいはセミ・プロというような形かも知れない。しかし、やがて強いチームはフルタイムのプロ選手なしでは維持できなくなるだろう。
 プロを作るべきか、どうかということは、議論をしてもはじまらない。プロ反対論者といえども、せいぜいできることは、公式にプロ選手として承認する時期を遅らせることだけである。
 これは、つまり「にせのアマチュア」を横行させることになるだろう。
 プロ・サッカーが生まれることは、社会の大きな動き ―― いわば歴史の一環であって止めようがない。
 ユーゴには、1960年ローマ・オリンピックに優勝したときにはプロはなかった。少なくとも、ないことになっていた。
今では1396人のプロ選手が登録されており、ユーゴリーグの1部16チーム、2部36チームで活躍している。社会主義国と称している国でさえ、この通りだ。
 まして資本主義の国、自由主義の国、高度経済成長の国といわれる日本で、プロ・サッカーの登場を防ぐことはできないと思う。


プロ登場に対する準備を……

 そこで協会、日本リーグをはじめ、日本のサッカー界は、プロの登場に対する準備をはじめなければならない。
 紙数がないので、くわしく書くことができないが、つぎのようなことを考えてほしい。
 1)プロとアマが同じ団体で統制され、ともにサッカーをすることができるという、サッカーの国際的な組織の特徴と長所を、みんなが理解し、PRすること ―― これは、いままで日本で(日本だけで)横行していたアマチュアリズムのせまい考え方とは、 まったく違うが、スポーツを正しく発展させるための、ひとつの有力な考え方なのだ。
 2)選手の登録制度を確立すること ―― アイスホッケーで岩倉組の岩本という有力選手が退社後、西武鉄道にはいり引抜だと問題になっている。
 「サッカーではそんなことは起きない」と関係者はいうが、三菱の山田選手は東芝から移ったし、日本銅管の大野選手はもと富士通にいた。ほかにも例はある。その間にまったく、わだかまりがなかったかどうか、当事者がよく知っているはずだ。
 引き抜き防止のための移籍制限規定は、アマチュアだからこそ (契約でしばられないからこそ) 必要なのだ。これは憲法で保障されている職業の自由とは、まったく別の問題だ。
 こういうサッカーの内部の組織をしっかりしておかなければ、プロが生まれるときに、思いがけない混乱が起きるだろう。
 ほかにも、いろいろあるけれど、別の機会に書くことにしたい。とりあえず、日本代表チームの長沼監督からきいた次の意見は、 まったく適切だと思うから、引用して結論としたい。
 「日本で世界に先がけてやろうというのなら、冒険をしてみる手もあるけどね。幸か不幸か、サッカーのプロは外国にいくらも例があるんだから ――。まずそれを研究してみたら、どうですか」 

 

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