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サッカーマガジン 1999年12月22日号
ビバ!サッカー

20年目のトヨタカップ
本当の世界一はこれだ!

 今年も、すばらしい試合だった。11月30日の火曜日、東京の国立競技場で季節はずれのナイター。シーズンまっさい中のヨーロッパの都合、ウイークデーに見にくる観客の都合、欧州と南米にも中継するテレビの都合・・・。いろいろな条件をくぐり抜けてトヨタカップは20年続いた。

MVPはギッグス
 トヨタカップ終了のホイッスルがなると、国立競技場で隣の席に座っていた友人が「MVPは誰でしょうかね」と聞いてきた。試合の最優秀選手には乗用車が贈られることになっている。
 「ゴールキーパーでしょうかね。それともキーンかな?」
 試合はマンチェスター・ユナイテッドが、1対0でパルメイラスに勝っている。
 「ボスニッチはよく守ったね。だけどゴールキーパーは、なかなか選んでもらえないものだからな」
 と、ぼくは答えた。
 きびしい守り合いの接戦のときは決勝点をあげた選手が対象になることが多い。決勝点はロイ・キーンの右足シュートだった。
 「キーンかもしれないけど、ほんとは違うな。11番だな」と、ぼくは心のなかで思った。 
 発表は、ぼくの考えどおり11番のライアン・ギッグスだった。
 前半35分、左サイド後方のデニス・アーウィンからのパスが、左タッチライン沿いのギッグスに出た。ギッグスはトップ・スピードで走りだしながらパスを受け、あっという間にマークのアルセを置き去りにした。 
 左からのライナーのクロスは。ジャンプしたゴールキーパーの指先を越えてファーサイドへ飛び、キーンの右足にぴたりとあった。 決勝点に関しては、ギッグスのアシストが断然、目を引いた。 
 レーシング・カーのような鋭い足回りのスピード、照準ピタリのクロス。MVPは妥当である。

新イングランド?
 ゴールの瞬間に「新しいイングランドだ」という思いが、頭の中をかすめた。サイドからの食い込み、ゴール前へのクロス。むかしのイングランドのスタイルが、加速性と操作性を向上させて再登場したような印象が一瞬、ひらめいた。
 しかし、すぐに「いや、違う」と頭の中で修正した。たまたま決勝点には、そういう形が出たが、マンチェスター・ユナイテッドのプレーぶりは、古いイングランドのサッカーの改訂版ではなかった。
 守備ラインをあげ、前線との距離を縮め、中盤のコンパクトな地帯の中で攻め、守る。そういう1990年代のサッカーだった。
 その点はブラジルのパルメイラスも同じで、今年のトヨタカップは典型的な「現代のサッカー」としての欧州と南米の対決だったと言っていい。
 マンチェスター・ユナイテッドは、コンパクトな地域の中での相手の厳しい守りをかわすために、短いダイレクト・パスを、すばやくつないで攻めた。これは古い典型的なイングランドのスタイルではない。
 しかし、現代のスタイルで相手の守りをかわしているなかから生まれたチャンスに「新しいイングランド」を思わせる攻めが実った。
 イングランドのクラブは、トヨタ・カップになる前のインターコンチネンタル・カップのときから通算しても、初めての優勝である。歴史的にも戦術的にも、意義のある優勝だったと思う。

世界クラブ選手権
 試合後の記者会見で、マンチェスター・ユナイテッドのアレックス・ファーガソン監督は「チャンピオンシップを獲得して非常に喜んでいる」と話した。
 MVPのギッグス選手も「われわれは世界クラブ・チャンピオンになった」と発言した。 
 イギリス人の記者からは「世界クラブ選手権と欧州クラブ選手権とでは優勝に、どんな違いを感じるか」という質問が出た。
 この3人の発言は、どれもトヨタカップを「世界クラブ選手権」として意識している。 
 20年前にトヨタカップが生まれたときの事情の一端を紹介しよう。 
 トヨタカップの正式名称は「トヨタ ヨーロッパ/サウスアメリカカップ」となっている。この名称を考えた電通の担当者に、ぼくは「こんな長いのは困るよ。欧州でも南米でも世界クラブ選手権で通っているのだから、そう呼んでもらえるようにしたら?」と提案した。 
 「いや、わざと長い名前にしたんですよ。そうしたら縮めてトヨタカップと呼んでもらえる」 
 「なるほど」と感心した。つまりスポンサーの名前を新聞に出してもらうための巧妙な戦略だった。 
 来年、欧州と南米以外の地域のクラブ・チャンピオンも集めて「世界クラブ選手権」を開催する計画が進んでいる。それに関連して、トヨタカップ打ち切り説も出ているが、クラブ世界一を決めるのは、トヨタカップだと、世界のファンが思っていることは間違いない。


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