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サッカーマガジン 1998年6月3日号
ビバ!サッカー

スポーツくじ法の成立

 いわゆる「サッカーくじ法」、正式には「スポーツ振興投票実施法」が5月12日の衆議院本会議で可決、成立した。スポーツ界全体のための法律ではあるが、くじの対象となるサッカー界の責任は大きい。2年後にスムーズにスタートできるよう、まだまだ考えるべき点がある。

☆サッカーのためじゃない
 「サッカーくじ」に、もともと賛成だったから、難産の末の成立を喜んでいる。そして、成立したからには、遠慮なく言わせてもらいたいこともある。
 新聞や雑誌で法案が、いろいろと論議されているのを、ぼくは、はらはらしながら見守ってきた。ぼく自身は発言は慎重に、そして控えめにしてきた。
 サッカーは投票の対象になるだけで、くじの益金の受益者ではない。その点が多くの人に誤解されていて「サッカーくじでJリーグは、どれくらいもうかるんだ」という質問をよく受けた。くじの益金は、主としてスポーツ振興のために使うことになっているので、サッカーのために使うわけではない。
 しかし、多くの人が誤解しているので、サッカーの専門誌で「サッカーくじ法案賛成」と、わめきたてると「サッカーのためにギャンブルを法律で認めることはない」と見当違いの反対が出かねない。そういうわけで、おだやかに本当のことを理解してもらうのが先だと思っていた。
 だから「賭けごとは悪だ」と頭から決め付けるのは偏見であること、サッカーを対象にするのは、他の賭けごとにくらべて弊害は少ない事実を指摘するだけにしてきた。
 これは「スポーツくじ」であって「サッカーくじ」ではない、というのが、ぼくの考えである。
 くじの益金は、スポーツ界全体のために使うので、サッカー界としては、それに協力できることを名誉とし、満足すべきである。

☆賞金制限に反対
 スポーツ振興投票法の成立の前から、くじに賛成しながら法案の内容を批判する意見も、たくさん出ていた。
 これも、ぼくは、はらはらしながら見守っていた。
 賭けごとに対する感情的な反対論が強いのだから、まず賭けごとへの偏見を克服してもらって、法案を成立させるのが第一である。法案の内容を厳しく批判して、かえって法案の成立を妨げることになっては元も子もない。「角を矯めて牛を殺す」結果になる。
 ようやく「スポーツくじ法」は成立した。そこで安心して、その内容を批判することができる。その批判に耳を傾け、改善できるところは改善してもらいたい、と思っている。
 一つのポイントは、賞金の最高額の制限である。1億円までにするという話だが、実は賞金額を低く押さえると賭けごとの弊害を助長する。
 「トト」と名のつく賭けごとの本質は、めったなことでは当たらない代わりに一攫千金の夢があることである。人びとは「夢を買う」のであって「実利を買う」のではない。どうしても実利、つまりお金が欲しいのなら「額に汗して」働くのがいい。
 額に汗しても、とても稼げないような何億円あるいは何十億円を手にする夢があるのが「トト」である。
 賞金を高額にするためには、当たる確率を低くしなければならない。ほとんど当たらないことになれば、夢を買うために、なけなしのお金を注ぎ込む弊害は生じない。
 というわけで、最高賞金額の制限は、ぜひ見直してほしいと思う。

☆全額をスポーツのために
 もう一つの問題は、益金の使い道である。
 スポーツくじは、売り上げの50パーセントを賞金にあて、15パーセントを運営経費にあてることになっている。35パーセントが益金である。
 益金は三つに分け。3分の1がスポーツ団体に、3分の1が地方自治体のスポーツ事業助成金にあてられる。残りの3分の1は国庫に入る。
 「捕らぬタヌキの皮算用」ではあるが、年間売り上げは1800億円の見込みだというから、益金の3分の1は210億円になる。
 ところで、3分の1を政府が取るというところが情けない。スポーツくじのアガリをかすめるような、ちゃちなことはしてほしくない。せめて、国庫に入る210億円も、スポーツ振興の予算に使って、いったん国に入っても、スポーツのために還元されるようにしてほしい。スポーツくじは「スポーツ振興のための寄付」のつもりで買うものである。
 さて、スポーツ振興のための方法は、いろいろあるが、くじの益金を使うのにふさわしいのは、まず、オリンピックや世界選手権などの選手強化費である。
 オリンピック代表になるのは、少数の選ばれた人びとである。国民全体のためでなく、一部の人びとを応援するのだから、強制的に取られた税金でなく、使い道を知ったうえで自主的に出したお金を使うのが適当である。
 益金の配分には、検討を要する点が、たくさんあるが、こういう考え方も理解してほしいと思う。


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