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サッカーマガジン 1997年10月22日号
ビバ!サッカー

日韓戦の敗因を究明する

 ワールドカップのアジア最終予選のヤマ場だった韓国との第1戦で日本代表は手痛い逆転負けを喫した。この勝負のポイントは、加茂周監督と車範根監督との用兵にあった。まだ予選は戦いの半ばではあるが、今後のためにも、この敗因はここで明確に究明しておきたい。

☆呂比須先発への疑問
 歌声というより大騒音のうねりといったほうがいい。9月28日、国立競技場のスタンドを埋め尽くした大観衆の試合前の応援合戦に包まれたなかで、両チームのメンバーの発表をきいて「おや?」と思った。呂比須が先発に入っていたからである。呂比須ワグナーは、この試合の数日前にブラジルからの帰化が認められてロペスから改名したばかり。「帰化したら日本代表に」といわれてはいたが、加茂監督がいきなり先発に使ってくるとは思っていなかった。
 「これは、ちょっと気合が入りすぎている」という気がした。
 秘密兵器をいきなり繰り出すのは、ここが関ヶ原と捨て身で決戦を挑むようなものである。しかし、この最終予選は先が長い。8試合のうち、まだ3試合目である。ここで焦って秘密兵器を使ってしまうことはないのではないか。
 加茂監督が、最前線でカズとコンビを組むストライカーに頭を悩ませてきた。それは分かる。しかし、これまで城を使ってきたのだから、この試合も、これまでどおりのコンビで戦うべきではないか。今までのやり方で韓国に勝てるんだということを先発メンバーで示して、選手に自信を持たせるのがいいんじゃないか。呂比須は、いつでも交代で出せるように、ベンチに置いておいて韓国側に「おどし」をかけておいたほうがよかったのにと、ぼくは考えた。
 とはいえ、チーム内部事情は分からない。チーム内に、ぼくたちの知らない事情があり、加茂監督には別の狙いがあったのかもしれない。

☆選手交代の明暗
 韓国は厳しいマンツーマンの守りで日本の攻めをまず封じる作戦だった。カズには崔英一を、呂比須には李敏成をつけて日本のツートップを押さえた。
 攻撃の起点である日本の中盤の2人も厳しくマークした。名波には柳相鉄が、中田には張亨碩がついた。
 日本の攻め、韓国の守りからの逆襲という形で好試合だった。シュート数は韓国が多かったが、ボールを支配している時間帯は日本のほうが、やや長かったように思う。
 後半22分に日本が先取点をあげたあとが問題だった。27分に加茂監督は呂比須を引っ込めて秋田を交代出場させた。守備プレーヤーを出して守りを強化し1点のリードを守ろうという策である。
 リードされた韓国が、総反撃に出ようとすることは明らかだったし、韓国は日本の疲れを狙ってスピードのある攻撃的プレーヤーを投入してきたから、秋田を繰り出したのは間違っていない。問題は、そのために呂比須を引っ込めたのが正しかったかどらかである。
  1対0でリードしたからこそ、カズと呂比須を最前線に張りつけておくことも考えていい策である。韓国はカズと呂比須のマークを続けなければならないから総攻撃の勢いをそがれる。呂比須を引っ込めてワントップにすると呂比須をマークしていた韓国の選手は攻撃に参加しやすくなる。結果論かもしれないが。実際に84分の劇的な逆転ゴールを挙げたのは呂比須のマーク役だった李敏成である。

☆監督は気持ちに余裕を
 韓国の同点ゴールは84分、徐正源だった。
 車範根監督は「日本選手が疲れるのを待ってスピードのある選手を投入した」と試合後の記者会見で話していた。徐正源はその「スピードのある選手」のひとりである。車範根監督の用兵はみごとに的中した。
 1対1の同点になったあと、加茂監督はベンチにいた西沢に交代の準備をさせはじめた。これは同点にされて浮き足立っている日本選手を、ますます混乱させたのではないか。フォワードの選手が送り込まれようとしているのを見て「引き分けじゃダメなんだ。無理しても勝ちにいかなければ」と思わせたのではないか。
 逆転ゴールが西沢が本田と交代する直前に決まった。もともと本田が押さえていたはずのポジションからの李敏成のミドルシュートだった。
 日本にとってホームの試合だから「ぜひ勝ちたい」という加茂監督の気持ちも無理はない。しかし、同点にされたのは残り時間6分というときである。
 ここは「引き分けでもいい」と腹をくくるところではないか。
 前号に書いたように、今回の日韓戦にはホームもアウェーもない。ここは引き分けでもソウルでの試合で勝てばいい。残り6分で失点の可能性も大きい反撃に出るのが正しい選択だったかどうか。
 結論はこうである。
 日本が逆転負けした原因は、加茂監督が日韓戦に「まなじりを決しすぎた」ことである。今からでも遅くない。気持ちに余裕を持って巻き返しをはかってもらいたい。


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