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サッカーマガジン 1993年9月2日号

ビバ!サッカー

アルシンドヘの処分

 アントラーズの人気者アルシンドが4試合の出場停止になった。Jリーグにとっては今後の先例になりかねないケースだっただけに、難しい裁定だったが、これまでに比べて甘すぎる処分という声もある。

☆処分は軽すぎる?
 みなさん、ご存じだろうが、事件の概要はこうだ。
 8月7日のマリノスとの試合で、ジーコにイエローカードが出たところ、アルシンドが「親分に対してなんたることを」とばかり、主審に抗議、手に持ったボールを主審のお腹に押しつけてぐいぐい詰め寄った。主審は警告にも退場にもしなかったが、これが「審判侮辱」で2試合出場停止の対象になった。
 さらに試合終了後、アルシンドは審判の控え室に乗り込んで、かなり口汚い言葉で文句を言った。これも「審判侮辱」で、さらに2試合、計4試合の出場停止になった。
 9日の規律委員会で処分が発表されると、友人が電話をかけてきた。
 「甘すぎるんじゃないか。これまでの例や外国の例を考えると永久追放でも、おかしくないよ。人気者だから甘くしたんじゃないのか」
 ぼくも甘すぎると思う。「審判侮辱」でも2試合出場停止は最低の処分である。しかしボールでぐいぐい押したのは、手で突き飛ばしたのと同じで「侮辱」というより「乱暴」に類している。「審判員への乱暴」の場合は、懲罰規定では「1年以上の出場停止」のはずだ。試合後、審判室に怒鳴りこんだのは、言語道断で「無期限」でもおかしくない。
 Jリーグになってからは初めてのケースだから、とくに温情で最低の処罰にしたのかもしれない。そうだとすれば「この次からは、同じことをしても、もっと厳しい処分がありえますよ」と、あらかじめ警告しておいた方がいい。

☆プロ野球との違い
 「ブロだから、アルシンドの人気に配慮して処分を軽くしたんじやないか」
 これは、プロとアマの関係を考えるとき興味深いテーマである。
 プロ野球でも、審判に乱暴すれば退場処分になる。しかし、その選手を出場停止処分にすることは、めったにない。たいていは罰金である。
 プロ野球の関係者に「退場させられた選手を出場停止にすべきじゃないか」と聞いてみたことがある。「それは、難しいんだよ」というのが答えだった。
 「お客さんはスター・プレーヤーを見に来るんだ。入場してみたら、お目当てのスターが出場停止では、プ口として申し訳ないもの。それに選手もプロだから、出場できないと生活権の問題になるからね」 
 「なるほど、そういうこともあるのか」と思ったが、サッカーは考え方が違う。
 野球と違って、サッカーは国際的にも、国内でも、プロとアマが同じ組織に属している。
  アマチュアで許されないことは、ブロでも認められないのが原則である。プロだから処罰を甘くするようなことは、サッカーの考え方に反している。
 「1%のプロは99%のアマチュアの模範であれ」というのが、国際サッカー連盟(FIFA)の方針である。そういう意味では、むしろプロの方に、より倫理的な厳しさが求められている。生活権にかかわるような行為は、自分の責任で慎まなければならない。

☆外人の思い上がり
 「こんな事件が起きるのは、外人選手が、おれたちはサッカーの本場から来たんだと思い上がっているからじゃないのか?」
 友人の質問に「そんなことはないだろ」と答えたが、「外人だから」という要素がなかったとはいいきれない。
 アルシンド自身は、ただカッとなっただけだと思うが、日本に来た欧州や南米の選手が、日本をサッカーの発展途上国だと思って軽く見ている例は、いくつか見ている。それがプレーヤーの態度にも、主審の対応にも、無意識のうちに影響していたかもしれない。
 本場から来た外人が、すばらしい技術を披露し戦術を展開してくれるのは結構だが、自分たちの国でしか通用しないやり方を「本場では、こうなんだ」と押しつけるようでは迷惑だ。
 今回のケースでは、主審の態度にも問題があった。
 ボールでぐいぐい押してくるアルシンドに対して、主審は苦笑いしているだけで、赤いカードも、黄色いカードも出さなかった。「本場のプレーヤー」にごねられて大きなトラブルになったら困ると、恐れたように見えた。そういうことだと「本場の外人」を、ますます付け上がらせることになる。相手が日本人であろうと外人であろうと、同じように毅然とした態度で処理して欲しい。
 とはいえ主審の態度がどうあろうとも、アルシンドの行為を割り引く材料にはならないのは、もちろんである。 


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