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サッカーマガジン 1991年12月号

ビバ!サッカー 

サッカー人気は本物か?
結局は内容で勝負となる観客動員作戦の成否

東海マスターズの人気
雨の中、過去の幻を追う試合に、結構、観衆が集まった!

 10月6日に国立競技場に「ワールド東海マスターズ」を見に行って、びっくりした。 
 お客さんが結構、たくさん入ってなかなかの人気である。 
 千駄ヶ谷の駅をおりたところで、もうかなりの混雑だった。
 「お帰りの切符は、あらかじめ、お買い求めください」 
 と、駅員がマイクで繰り返している。試合が終わると、帰りのお客さんがどっと電車の切符を買う窓口に殺到する。だから競技場に行く前に先に帰りの切符を買っておいて欲しいというアナウンスである。
 競技場の入り口には、長い列が出来ていて、混乱しないように繩を張って誘導していた。 
 ハーフタイムに発表された観客数は5万1000。スタンドは八分通り埋まっていたが、雨の中で傘をさしているお客さんが多かったから、実数は、それほどでは、なかったかもしれない。しかし、それにしても、雨の中を、これだけの人々が足を運んでくれるのだから、サッカー人気はたいしたものだ、と感心したわけである。  
 この東海マスターズは、すでに第一線を退いた世界のスーパースターによる欧州対南米のエキジビション試合である。     
 プラティニやリベリーノなど、ワールドカップでおなじみのスターが顔をそろえている。  
 これだけのスターをならべると、ギャラがたいへんだろうという気がするが、すでに現役を引退した選手だから、それほどのことはないのかもしれない。     
 それに、今年の世界の最優秀選手となると1人だけしかいないことになるが、過去にさかのぼれば、世界のトップスターは何人もいるから、顔触れをそろえるのは、そう難しくはない。そういう点では頭のいい企画である。
 しかし「過去の幻」を追う試合なので、勝負の面白さを期待するのは無理である。あくまでも、これはエキジビションである。
 過去の人気を売り物にするのだから、見にくるお客さんは、ある程度サッカー通でなければならない。名選手たちの過去の実績をよく知っていなければ、見にくる気にはならないだろうからである。
 というわけで、実は、競技場に行く前には、どれくらいファンが集まるか疑わしいと思っていたのだが、実に相違の大観衆だった。つまり、世界のサッカーを知っている人が、何万人もいることが証明されたと言っていい。そういう意味では、サッカーの人気は本物である。 
 試合そのものも、実に相違して面白かった。特にフランスのジレスとティガナが楽しませてくれた。
 もちろん現役の試合に比べれば、スピードはないし、運動量は少ない。 
 それでも、見て楽しい試合が出来るのだから、サッカーの面白さは、スピードと体力よりも、技術とウイットであると思った。 
 まあ、これは、ぼくの十年一日の持論であるが……。

カズの人気の秘密は?   
話題性にキャラクターと実力が加わって観客動員に貢献!

 東海マスターズの前日は、同じ国立競技場に、日本リーグの読売クラブ対全日空の試合を見に行った。
 これも、お客さんの入りが良かった。ホームの読売クラブの人の話では、当日券の売り上げ金額が、これまでの約4倍、新記録だそうである。 
 スタンドで、ばったり友人に出会った。 
 「サッカー人気は、どうやら本物みたいだね。プロ・リーグの宣伝がものを言ったのかな」 
 友人は、つむじ曲りだから、素直には評価しない。
 「お前は、読売クラブの試合しか見に来ないから、そういうことを言うんだ。読売の出ない試合は、ひどいもんだよ。プロになったら1試合1万人以上のお客さんを集めるなんて話は夢みたいなもんだよ」 
 そうであったか。  
 まだ発足していないプロ・リーグが、じゃぶじゃぶお金を使って、有名なプロゴルファーやお相撲さんを起用してポスターを作るなど派手なPRをしているから、その波及効果で日本リーグにも、お客さんが集まるようになったのかと思ったが、どうも、そうではないらしい。波及効果なら、読売クラブだけでなく、他のチームの試合にも、お客さんが集まりそうなものである。
 「そうすると、これはカズの人気かね」と、ぼくが聞いたら、友人は我が意を得たりとうなずいた。 
 「それは大きい」  
 ブラジルから帰って、昨年、読売クラブに入ったカズこと三浦知良の人気が、読売クラブの観客動員を助けていることは確かなようである。 
 「ブラジルでプロだった」ということが話題になって、新聞や雑誌に取り上げられ、テレビのコマーシャルにも登場して、たちまち人気急上昇となった。  
 もちろん、話題性だけでは長続きはしない。ブラジル仕込みの足技が評判通りグラウンドで発揮されて人気を裏打ちした。 
 それにしても――。 
 ぼくの目から見ると、カズの力が抜群というわけではない。ブラジルやアルゼンチンやチェコスロバキアから来ている外人選手のテクニックや判断力は、カズを上回っている。 
  しかし、人気はカズが上である。 
 「カズは笑顔が親しみやすいし、話が面白いからな。外人選手には、キャラクターの面白さがないよ」 
 それはそうだろう。言葉の通じない外人選手では、いくら面白い話をしても通じない。やはりスターは日本語で話してもらいたい。
 ぼくの考えでは、プロ・リーグ発足のPRは、サッカーそのもののPRにも非常に貢献したと思う。それがカズの登場と相乗効果になって、読売クラブの観客動員に役立った。 
 しかし、話題性だけでは長続きしない。プロ・リーグ発足の話題は確かにマスコミを賑わせたが、話題には実体の裏付けがなくてはならない。 
 その実体は、日本語を話してもらいたい。「ペレストライカー」なんていう、奇妙きてれつな宣伝屋の造語で、人気が続くと思っては困る。

4万人作戦は雨で不発?  
引換券をばらまいて観客を動員しても結局は内容が勝負!

 次の週、やはり国立競技場の日本リーグの試合で、JR古河が「4万人動員」のキャンペーンを試みた。あの手、この手で、お客さんに競技場に足を運んでもらい、スタンドを埋めようという作戦である。 
 この日の試合は、JR古河のホームゲームだったが、相手は読売クラブだった。敵方の読売クラブの人気も、あてにしたようなところもあるが、それにしても、努力して観客を集めようという考えは悪くない。 
 あいにく、当日は台風が近付いて雨模様。せっかくのアイデアは水をさされて不発に終わった。お天気だったら前の週の試合と比べて、読売クラブの固定ファンの他に、JR古河の努力でどのくらい、お客さんを集めたか評価できただろうが、残念だった。
  ところで――。あの手この手でお客さんを集めるといっても特別に妙手奇手があるはずはない。あれば、どのチームでも、とっくに試みているはずである。 
 ぼくの見たところJR古河の決め手は「引換券作戦」だったようだ。 
 競技場の千駄ケ谷門の入り口で、役員の人たちが「引換券の方は、内側のテントで引き換えて下さい」とアナウンスしていた。ほどんどの、お客さんが、切符売り場ではなく、そのテントに直行していた。 
 これはJR古河だけでなく、またサッカーだけでなく、いろいろな催しで使われる手である。 
 引換券を大量に印刷して、いろんなところに、ばらまく。引換券を持って競技場に来たら入場券と交換してもらえる仕組みである。
 引換券の配り方はいろいろだが、まあ、だいたいは、もらう人から見れば無料だろう。だから招待券のようなものではある。 
 招待券と違うのは、競技場の定員以上に大量にばらまくことが可能だということである。引換券そのものでは入場出来ない。入り口で本物の入場券と引換えなければならない。 
  「満員のときは引換え出来ません。先着順です」と券の裏に印刷しておけば問題はない。       
 現実には超満員になるような場合は、ばらまかないから、支障はないようである。 
 このやり方には、もちろん、弊害もある。          
 東海マスターズのとき、入場券売場で切符を買っている人は、日本に出稼ぎにきているらしい外国人が多かった。自分の国のスターたちが来ているので見に来たんだと思う。こういう、あまり裕福ではないに違いない人たちが高い入場料を払って、日本の一部の人が引換券を手に入れているのには、割り切れない思いがした。 
 というわけで、引換券作戦に、ぼくは賛成ではないが、限られた条件でやるのなら、新しいファンを開拓するのには役に立つ。 
 とはいえ引換券をもらって見にきたお客が「なんだ、面白くないや、切符をもらっても、この次は来るのをやめよう」と思ったら逆効果である。 
 やはり試合の内容が第一である。


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