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サッカーマガジン 1978年9月10日号

時評 サッカージャーナル

いろいろな少年チーム

小学校チームは少ない
 夏休みの全日本少年サッカー大会が、ことしから1都府県1代表になった(北海道から2代表)。7月31日から8月5日まで、東京都下多摩丘陵の“よみうりランド”で開かれた決勝大会に進出して来たのは全部で48チームだ。炎天下、6面の芝生のグラウンドを、色とりどりのユニホームのチビっ子選手が元気いっぱいに走りまわるのは実に壮観である。
 決勝大会のはじまる前に、読売新聞社の全国の支局に依頼して代表になった各チームの“横顔”を調べてもらった。集まってきた資料を読んでみると、みなそれぞれに面白い。
 この大会は満13歳未満、つまり小学生以下の少年チームのための大会だが、一つの小学校の児童だけで編成されているのは、48チームのうち28チームである。
 しかし、その中でその学校の先生が指導しているのは、17チームだけだ。つまり純粋の「小学校チーム」は、案外少ないことがわかる。その内訳をみると東北と九州が5チームずつ、北陸、山陰、四国から2チームずつで、関東、関西の都会地からは「小学校チーム」は出て来ていない。西淡津井サッカー・スポーツ少年団は、関西から来た小学校チームだが、これは関西といっても、淡路島のチームである。
 つまり、大都市から離れた地方では広い地域に一つの小学校しかないから、当然、選手は一つの小学校の児童に限られてくるし、指導者にも恵まれないから、小学校の先生が自ら学校教育外のスポーツ活動も指導することになる。こういうところでチームを組織して、全国大会に出るまでに育てあげた先生方の努力と苦労には、頭の下がる思いである。秋田代表の前郷イレブンは、同県由利町の前郷小学校のチームだが、監督の先生は「陸上長距離の出身」と書いてあった。
 選手は一つの小学校の児童だけだが、指導者はその学校の先生ではない――というチームは20あった。こういうところは小学校を中心にした社会体育クラブだ。
 埼玉代表の北浦和サッカー・スポーツ少年団は「14年前に近所のトンカツ屋さんが結成した」チームだそうだ。選手は全員、北浦和小学校に通っているが、現在の監督さんは、そのチームのOBである。
 群馬の前橋エコークラブは、決勝大会に登録した15人の選手のうち、1人だけ別の小学校の児童だった。ここは、一つの小学校が母体になっているけれども、クラブ組織で、別に中学生のチームも持っている。グラウンドに照明設備があって、夕方から練習できるとのことだ。指導者は、自動車修理工場を経営している。
 福井県の南条少年クラブは、小学校チームで指導者も先生だが、ここも「中学生チーム」を別に持っている。おそらく小学校の卒業生で、中学にサッカー部のない生徒、あるいは中学のサッカー部にはいりたくない生徒が、母校の小学校を拠り所にしているのだろうと思う。これも一種の“社会体育”である。
 二つか三つの小学校が連合して一つのチームをつくっているところもある。長野県の大町サッカー・スポーツ少年団、岐阜県の飛騨白川サッカー・スポーツ少年団がそうだ。どちらも、指導者は先生ではない。
 この飛騨白川少年団は、県大会のときには吉城少年団という名前で出ていたのに、決勝大会では名前を変更して、ぼくたちをまごつかせた。全国的にわかりやすい名称にしたのだろうが、新聞社としては、いささか迷惑である。

「選抜FC」方式
 小学校中心でない混成チームには大きく分けて3種類ある。
 一つは少年サッカー・スクールからはじまったチームで岩手の釜石少年団、奈良県の奈良FCジュニアなどがそうである。
 釜石少年団は、新日鉄釜石の社員が指導者になってはじめたものだそうだ。いわば企業チームが母体である。
 奈良FCジュニアは、熱心な社会人のはじめた少年サッカー・スクールが母体だが、ここはチームとしては、大人のチームのほうが先にできたらしい。少年チームが対外試合をはじめたのは、ことしからだということだ。
 京都の紫光少年団は、日本リーグ2部でがんばっている京都紫光クラブの少年チームである。これも少年スクールから選ばれた選手たちによる編成だろう。
 茨城の日立少年団は、団員1300人、市内の13会場を使って練習しているというマンモス少年団である。決勝大会に出てきたチームは、その中から選ばれた選手による編成だろう。こういうチームも“サッカー・スクール型”といえるかもしれない。
 もう一つのタイプは、スクールというには、もう少し小規模な、しかし、がっちり固まったクラブである。神奈川県の「いずみキッカーズ」は、学習塾の先生が指導者で団員120人。大阪府の高槻FCは「ブラック・パンサー」という別名がある――と支局の調査に書き込んであった。
 さて、最後に、ことし急増した「選抜FC」方式のチームがある。
 これは、静岡県の清水市が開発したもので、市内の小学生チームの中から学年別に優秀選手を集めて一つの単独クラブをつくる方式である。清水市内には25の小学校があって、それぞれサッカーチームを持っているが、その中から素質のありそうな子供たちを引き抜いて、別のチームをつくるわけだ。したがって、清水FCの子供たちは、県大会では、自分の通っている小学校チームと対戦することもある。
 優秀選手を集めてチームをつくるのだから、これは強い。そこでことしは、打倒清水をめざして「選抜FC」のチームがつぎつぎにできた。広島、名古屋、千葉県の船橋、東京都の町田など決勝大会には清水を含めて七つの「FC選抜」が出てきた。
 このように、いろいろなタイプのチームがあるところに、少年サッカー大会の面白さがあると、ぼくは思っている。


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