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サッカーマガジン 1977年10月25日号
時評 サッカージャーナル

コスモス来日の内幕

史上最大の大宣伝
 「最後のフリーキックをける前のペレの目を見ましたか? すごかったですよ。ギロッとゴールをにらみまわしてね。それからけったら、スポッとはいっちゃった」
 コスモスの第1戦から3日ぐらいあとに、古河電工の宮本征勝コーチが、こういっていた。古河のベンチからペレの表情が見えたわけではない。あとでテレビの録画をみたら、ペレの表情のクローズアップが見事にとらえられていたらしい。
 宮本コーチの話を聞いて「ペレのサヨナラ・ゲームを日本でやることができて、本当によかったな」と思った。
 ペレのその表情――親善試合の勝負の決まったあとの追加点にみせたプロの真剣さを、全国で何千万の人が見たに違いない。そしてそれに続く、あの見事なバナナ・シュートに感嘆したに違いない。
重要なのは、その大部分がこれまでサッカーにあまり関心のなかった人たちだったことである。
 現に、ペレが後楽園球場で巨人の王貞治選手に会ったとき、王選手が述べた最初の言葉は次のようなものだった。
 「こないだの試合のペレさんの得点は、すごかったんでしょう。ぼくは見ることはできなかったんだけど、カーブして、ドロップしてはいったという……」
 サッカーのことは何も知らないという王選手が、ホームラン新記録のあとの目のまわるような忙しさの中で、ペレのゴールのことを知っていた。これは今回のペレ・サヨナラ・ゲーム・イン・ジャパンが、どんなに広く、世間にサッカーに対する関心を呼び起こしたかを示している。そういう点で、今回のペレ・サヨナラ・ゲームは大成功だったと思う。
 ペレ・サヨナラ・ゲーム・イン・ジャパンが。これほどの大きな反響を呼び起こしたのは、日本サッカー協会が、世界一の広告会社である「電通」と組んで、この仕事をしたからである。モチはモチ屋で、電通さんは、サッカー界の人間だけでは、とても考えつかないようなアイデアを次から次へと打ち出して、これまでにないサッカーPR作戦を展開してくれた。
 もちろん、ペレがこの大宣伝をから騒ぎに終わらせないだけの力量を備えていたから、できたことである。第1戦の最後のフリーキックは、電通の大宣伝が決してホラではないことを、みごとに証明してみせた。だから「本当によかった」とぼくも思ったわけである。
 日本サッカー協会が電通と組んだ今回のやり方に、批判の声がないわけではない。小さなトラブルはいくつもあったし、今後考え直さなければならない大きな問題も残った。ただ、欠点をあげつらうことに急で、せっかくの成果を無にしたくはないものだ。
 さて、コスモス来日の話が起きたときの最初の問題点は、コスモスを日本で代表する権利を、青山エンタープライズという会社が持っていることだった。だからコスモス来日の話は、まず青山エンタープライズから日本サッカー協会に持ち込まれた。
 それはそれでいい。コスモスの日本支店長にだれを任命するかは向こう側の問題である。
 ただ青山エンタープライズにしてみれば、営利会社である以上は、コスモスを日本サッカー協会に紹介しただけで「どうぞ、よろしく」と引き下がるわけにはいかない。これも当たり前である。

商業主義は是か非か
 ふつう、こういう会社が外国の音楽家などを呼ぶ場合は、名義上の主催者を別にたてることがあっても、興行そのものは自分自身の手でまかなうのが例である。当たれば大もうけになるが、もちろん失敗して大赤字になるリスクも自分でかぶる覚悟である。
 コスモスについても、日本サッカー協会に一定額の権利金を払って、試合のプロモートは自分たちの手でやりたかったのだろうと、ぼくは推察する。7万人を収容する国立競技場での大興行は、商売冥利につきるだろうと思われるからである。
 しかし、サッカーでは、それはできないことになっている。今年のはじめに、日本サッカー協会がコスモス来日の最初の話を断ったのは、そのためであるらしい。
 FIFA(国際サッカー連盟)の規則第10条には、このような場合についての細かい規定がある。
 それによると協会か、協会加盟のクラブ以外の者が「利益を目的として試合をアレンジすること」は原則として禁止されており、試合を仲介する代理人がはいった場合には、その代理人への手数料は入場料収入から経費を引いた残りの10%以下に制限されている。
 そういうわけで、一度はペレのサヨナラ試合の開催を断った日本サッカー協会だが、その後いきさつがあって青山エンタープライズは、コスモスの試合についての交渉を電通に任せ、電通と協会が話し合って試合が実現した――というように、ぼくは聞いている。
 FIFAの規則にあるように、今回も試合を開催したのは日本サッカー協会である。ただ運営については、協会と電通で実行委員会を設けて、そこで管理した。
 おそらく2試合の入場料とテレビ権利金で2億円〜2億5千万円の収入があったのではないかと思う。支出はコスモスヘのギャラが約3千万円、国立競技場の使用料が約2千万円、宣伝費等4千万円、旅費宿泊2千万円――これくらいの見当ではないか。まだ決算が出ているわけではなく、ぼくの推算だが、黒字のうちの1割だけが電通の取り分のはずである。
 一時は1億円以上だった協会の赤字も、これで一応は解消しただろうと思う。大宣伝で多くの大衆の目をサッカーに向けさせたことと、この黒字は今回の企画の大きなメリットだった。
 残された大きな問題は、今後コマーシャリズムとの協力の限度をどの辺に置くかである。このことについては、また改めて考えてみたいが、頭から商業主義を毛嫌いしてアマチュアリズムの城にとじこもるのは、現実的ではないし、正しくもないとぼくは思っている。


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